3/10のねこさん 文は田島薫
シックの思い出
去年の秋、家人と私がねこよこちょう入口角の家でしぶしぶ出て来たシックにブラッシン
グしてやったのがシックに会った最後だった。翌週にまた行った時、外にいた家の奥さん
からシックが死んだと知らされた。何年か前にその家へやって来た時から重度のヒフ病で
ずっと具合があまりよくなかったそうだった。よくいっしょにテラスに出てたその家のき
とらはそれから全くテラスに出て来ることはなかったんだけど、先週末の晴れた午後、家
人と自転車で食料の買い出しに出かけた途中、いつものようにその庭のだれもいないテラ
スを横目で見て通りすぎた時、後ろから家人が、ねこさんがいたよ〜、って、言うんで戻
ったら、テラスの手すりの上でこっち向いた逆光のきとらのリンカクが光っていた。
なんでぼくはずっと家ん中いるよ〜になっちゃったんだっけ、前はたしか、そこの戸の外
の木の台に出てひなたぼっこしてたんだよな、あ、そ〜だ、ためじろーがよくいたもんで、
場所とりの競争したりしてたんだったな〜、あり?そ〜いえば、ためじろーはど〜したん
だったかな、あ〜、ず〜っと前に台に来なくなっちゃったんだったな、ぼくが、一回ため
じろーにいじわるして、あっち行けー、って言った後、ほんとに来なくなっちゃったんだ
な〜、ふざけただけだったのに、本気にされちゃったんだな〜、もう一回会った時にあや
まろ〜、って思ってたのに、全然来なくなっちゃったんだな〜、で、ぼくもつまんなくな
って外出なくなっちゃったんだな、あ、まてよ、ぼくが出てないと、ためじろーも、あ、
とらあにーがいないから、つまんない、って遠くから台見て帰っちゃうのかもしれなかっ
たか、あ、ちっとも気がつかなかったな、よし、じゃ、外出て、この目立つとこに座って
ためじろーによく見えるよーにしてやろー、おーい、ここにいるぞー、出て来いよー。