6/28ののらねこ         文は田島薫



きょうも事務所ドア横の皿にお客さんの姿は見えない。

朝見るといつも前日や週末に入れておいたエサはなくなっているから、

夜の間に来てることはまちがいないんだけども。

もうすっかり真夏の気候だから、毛皮を着た彼らは昼間は暑くて食欲が

出ないのかも知れない。


外に出てベランダをひとまわりしながら地上を探してみる。

ねこっこひとり歩いてないなー、と思いながら東側に曲がって、正面の

建物と建物の間の人が一人やっと通れるぐらいの幅の向こうのずっと奥

をよく見てみると、小柄なくろとらが歩いて行くところだった。


今まで気付かなかったんだけど、その路地の向こう半分ぐらいにグリーン

の人工芝風のマットが何枚も敷かれ、そのまた向こうは何種類かの草や

花がバランスよく植えられていて、小さな植木もあり、ゴーギャンの描く

タヒチの森の箱庭版のような感じになっていて、ゴーギャンの森を野生の

大きな獣が歩いて行くといった図になっていた。


また現実の目に戻って、呼ぼうと思ったら、その時も私は歯を磨いてて、

ちょっ、ちょっ、と舌を鳴らして合図してみたけど、遠すぎて伝わらない

ようだった。


くろとらは森の奥へゆっくりと入って行くのだった。


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