1/13ののらねこ         文は田島薫




めっきり冷えた朝、ドア前の皿と水カップは空で、黒っぽいゴミ粒で汚れていた。

お客さんの姿は見えなかったけど、食事の用意をしておいた。


しばらくすると、事務所のベランダ側のすりガラス戸にくろっぽい影が見えた。

上の透明ガラスの部分からのぞくと、肥満のくろとらがゆっくり歩いて行き、角で

立ち止まってドアの方の何かを見ている。

ドアのそばのシャンさんの部屋へ行くと、カラスが来てエサみんな食べちゃってる、

と言うので、ドアよこの窓を開けてみると、となりの建物の屋根におなじみのカラス

がいて、そっぽを向いたり、こっちを見たりしている、おーい、来い来い、などと

話しかけてると、聞き耳をたてているようで、じっとしている。

それでも、はいなんでしょうか、ってこっちへ寄って来ることはせずに、飛び去った。

外へ出てみるとやっぱり皿の外にいっぱいこぼしているので、それを皿に戻した。


もうちょっとして、ちょっと開いた窓から見るとバットマンがいて帰ろうとしている

ところだった。

外に出て呼び掛けると階段の途中で止まって、寝転がってみせた後、階段の踊り場から

ねこけもの道へ続く方をしばらく見て、何か大切なものをみつけたらしく、どんどん

そっちの方へ歩いて行き、左下の方の塀に飛び移り視界から消えて行った。


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