4/12ののらねこ 文は田島薫
きょうは初夏のような暑気の広がるいい天気だったが、お客さんたちの姿は見えない。昼近くにやっとドアの向こうでエサ皿をゆする音がするので、そっとドア横の窓から
のぞいてみると、上下するハトのしっぽが見えた。
他のお客さんの来る気配がないので、ゆっくりたっぷり食べなよ、って思いながら、
ひっこんだら、ハトさんはその通り気兼ねなく、かなりの時間食べ続けた。
しばらく後、皿を見たら、あんなに長く食べてたのに、減りはほんのかすかだった。
午後になっても主賓は現れないので、これじゃまたきょうののらねこが、きょうののらどり、で終わっちゃうじゃないか、とドアの外を出て、下を見回しながら、
ベランダにある仮設住宅の回りを歩いた。
ぽかぽか過ぎる陽気に輝く道のすみの植木鉢や、となりの活版屋さんの社長がバイク
にまたがって出かけようとしていたりの、のどかな風景をながめた。
ひと回りしてからまた逆回りで戻って来たら、くろとらがととととと、階段を下りて行って2階の踊り場の裏に隠れる一部始終が見えた。
エサを食べようとしてまわりを警戒してみると、ぼーっとした人がふいに仮設住宅の角から
現れたので、慌てて逃げたのだろう。
ベランダの手すりから、のぞきこんで、隠れて見つかってないつもりのくろとらに、エサ食べに来いよ、って言ってやったら、おっ、と顔を向け、じっとこっちを見ていた。
後で見るとエサはほとんどなくなっていた。シャンさんは外出から帰って来た時こどもくろが階段を下りて来るのを見かけた、と言って
いたし、知らないうちにお客さんは来てるようだから、ひと安心。